2013年9月3日火曜日

風立ちぬ




ミニシアター系ジブリ作品




一人の少年が大空に馳せた夢―
自ら乗る事を神に許されなかった少年は飛行機にその夢を託した
ただひたすらに美しいサバの骨の曲線を目指して

ただし、時代は非情にも彼に残酷な運命をもたらしていく
その純粋な探究心でさえ、戦時下では殺戮のための道具にすぎなかった
軽くて丈夫で、そしてとても美しいその機体は、いつしか歴史上最も醜い兵器となった

風が吹き抜けた十年間、彼はひたすらに自らの夢を描き続けた
僕に残された時間は少ない、寄り道などしている暇はない
そこに運命の人が現れようと、どんなに悲痛な運命が待ち構えようと、
彼は立ち止まる事はない、そういう人間なのだから―

そんな男を運命の人としてしまった、菜穂子の悲しすぎる運命と
それでも彼を愛し続けた純粋な想いが胸を打つ

これを観た人の中に、奥さんがあんな状態なのにも関わらず、
黙々と仕事をし続ける次郎を劇中の加代のようにひどいと思う人がいると思う
ーけれども、しょうがないのだ
次郎という人間はそういう人間であり、だからこそ菜穂子は愛したのではないか?

―なんて解釈は、もしかしたら宮崎駿をはじめとした、男たちの勝手な夢なのかもしれない

祖国は戦争に敗れ、愛するものは死に
風のように駆け抜けた十年の果ては彼にとってはさんざんなものだった
彼の技術力によって日本軍はさらに戦火を拡大していった
彼の作り上げた最高傑作は結果、一機として日本へ帰ってくることはなかった
ただ純粋に美しい飛行機を作ろうとした男の十年間は果たして悪夢だったのだろうか―?

零戦をつくった男堀越次郎の人生を堀辰雄の「風立ちぬ」そして「菜穂子」を組み合わせ、
宮崎駿の作家としてのエゴイズムを投影させた作品
夢にのみ忠実に生きる男の姿を無駄な説明描写は一切なく、ただ淡々と描いていく―
大人のためのアニメ映画は作ってはいけないという自身の理論を覆し、
自らの作家性を前面に押し出した作品は、ジブリらしからぬまるでミニシアターを観ているようだ

この作品は日本よりも海外の方が評価が高くなりそうな気がする
台詞で語らず、描写だけで感じ取らせる説明描写と空想と現実が地続きに展開されていく物語
今のドラマとかに慣れてる人には展開が速すぎてしまうかもしれないが、
これについていければ味わい深く楽しめると思う

庵野秀明の棒読み台詞の違和感以外は個人的にはなかなか気に入った作品
宮崎駿による堀越二郎と堀辰雄への捧げる思いの詰まった作品

たまむすぎびでの町山さんの紹介が素晴らしかったので参考までに…


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