2012年2月27日月曜日

L'Illusionniste:イリュージョニスト




そして、手品は魔法となる




時間と言うものは有限であり、その中で万物は常に変化している
そう、それはまるで少女から女性へ変わって行くように―

手品を魔法だと信じる純粋さは幼い少女の特権だ
でも、それは少女が女性へ変わる時に必要のなくなるものなのだ
だって、手品は魔法ではないんだし、本当の事を知らなきゃいけないんだ

でも、本当にこの世の中に魔法使いはいなかったのだろうか?
いいや!彼が少女に魅せた最期のイリュージョンを観るといい、
それこそが少女を大人に変える魔法だったんだ

そんなジャック・タチの想いが形を変えて、スクリーンの中で広がって行く
少女の成長とそれを見つめる老人の姿を手品にのせてほろ苦く描き出し
観客の心に何かを残す、そんな映画という名の魔法をかけてくれる

観ているだけで、息を呑むような風景の中で、
独特のタッチで描かれるある手品師と少女の短いひととき
魔法を信じた純朴な少女と時代に置いていかれた老手品師の出会い

物語が進むにつれて成熟していく少女
そんな彼女へ最後に贈った手品は消えてなくなる事
これで彼女を幸せにする彼の魔法は完成する

台詞や余計な演出が一切ない演出で描かれる時の経過
質屋で売られているものや値札の表現、少女の部屋での寝姿、
「何が変わって何が変わらなかったか」がさりげなく描かれる

男性と仲良さそうに歩く姿と自分のプレゼントが雑然とされている姿を観て、
全ては過ぎ去っていくものである事を悟った手品師
彼女の幸せには自分の手品は不要なのだと悟り、存在と記憶もろとも消えていく
「魔法使いはいない」という言葉の裏には、一人で生きていきないという意味が隠されているかのように思えた

では、彼にとって彼女とはなんだったのか?
対照的に描かれる三兄弟と手品師との違いが応えである
そう、それはまるでジャック・タチが自分がここまでやって来れたのは、
自らの娘を含めて、そういう人達がいたからだと語っているかのよう

そして、最後のイリュージョンを成功させた後の電車の中で、
観客はどうして彼が少女にここまで親切にしたのかを知ることとなる
写真を見つめる表情が、どこか誇らしげで、どこか寂しげなのがまた泣ける
サイレント映画のように、台詞で語る事なく物語る

ジャック・タチが娘のために書き残した脚本をシルヴァン・ショメがまさに魔法のように映画化した

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